製造業、建設業、運送業、小売業。多くの現場で60代以上の従業員が増え、「ベテランに頼っている一方で、転倒や墜落の労災が心配」という声を聞きます。2026年4月からは改正労働安全衛生法により、高年齢者の労働災害防止のための措置が事業者の努力義務となり、厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」も適用されています。
この記事では、加齢で変わるのは筋力だけではないこと、そして「気づいてから動くまで」の一瞬をどう把握し、対策につなげるかを解説します。
2026年4月施行|改正労働安全衛生法と「高年齢者の労働災害防止のための指針」
2025年に成立した改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)により、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業の管理などの措置を講じることが、2026年(令和8年)4月1日から事業者の努力義務になりました。あわせて、事業者が講ずるよう努めるべき措置をまとめた厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」が同日から適用されています。
背景には、働く高年齢者の増加があります。厚生労働省の資料によると、令和5年には雇用者全体に占める60歳以上の割合が18.7%、休業4日以上の労働災害による死傷者に占める60歳以上の割合が29.3%となっています。
指針が示す措置は、次の5つの柱で構成されています。
| 指針の柱 | 主な内容 | 反応測定との関係 |
|---|---|---|
| 1. 安全衛生管理体制の確立等 | 経営トップによる方針表明、実施体制の明確化、災害事例やヒヤリハット事例からの危険源の洗い出し(リスクアセスメント) | 部署別・年代別の測定結果の傾向を、リスクの検討材料の一つにする |
| 2. 職場環境の改善 | 身体機能の低下を補う設備・装置の導入、ゆとりのある作業スピードや作業時間に配慮した作業の管理 | 段差の解消などの設備対策を基本としつつ、残るリスクを把握する |
| 3. 高年齢者の健康や体力の状況の把握 | 健康状況の把握、体力チェックの継続的な実施、情報の取り扱いのルールづくり | 体力チェックに「気づいてから動くまで」の測定を加える |
| 4. 健康や体力の状況に応じた対応 | 個々の状況を踏まえた就業上の措置、作業内容の見直し、身体機能等の維持向上の取組 | 年齢ではなく一人ひとりの数値をもとに、作業設計や教育を考える |
| 5. 安全衛生教育 | 高年齢者が自らの身体機能等の低下を自覚するための教育、管理監督者への教育 | 測定結果を本人に返し、KYTなどの体験型の教育と組み合わせる |
指針では、体力チェックについて、主に高年齢者を対象として継続的に行うことが望ましいとしたうえで、対象となる労働者に目的をわかりやすく説明すること、不利益な取扱いを防ぐために本人の同意の取得方法や情報の取り扱いを定めることなどを求めています。また、安全衛生教育では、危険予知訓練(KYT)を通じた危険感受性の向上教育なども挙げられています。本記事で紹介する反応測定は、こうした体力チェックや教育を補う方法の一つとして位置づけています。
高年齢労働者の転倒対策|4つの視点の早見表
転倒対策は、職場環境・作業の進め方・本人の状態把握・教育の4つの視点を組み合わせて考えると、抜けが少なくなります。
| 視点 | 対策の例 | 狙い |
|---|---|---|
| 職場環境 | 段差の解消、通路の整理整頓、照明の確保、滑りにくい床や履物、手すりの設置 | 「気づきにくい危険」そのものを減らす |
| 作業の進め方 | 急がせない工程、重量物の運搬方法の見直し、両手がふさがる作業の削減 | 判断と動作に余裕をつくる |
| 本人の状態把握 | 体力測定・健康診断に加え、「気づいてから動くまで」の反応を測る | 年齢ではなく一人ひとりの状態に合わせる |
| 教育・トレーニング | 転倒事例の共有、KYT、反応課題を使った体験型の教育 | 自分の状態を知り、行動を変える |
職場環境や作業の見直しは多くの現場で進んでいますが、「本人の状態把握」は体力測定だけで済ませられがちです。本記事ではこの部分を中心に解説します。
高年齢労働者の労災に多いパターン
高年齢労働者の労働災害では、転倒、墜落・転落、腰痛などの割合が高いことが知られています。とくに転倒は、段差につまずく、滑る、よろけて手をつけないといった、「気づく → 判断する → 身体を動かす」の流れが間に合わなかったことで起きるものが少なくありません。
ここで重要なのは、転倒は「足腰が弱ったから」だけでは説明できないことです。段差に気づくのが遅れた、気づいたが足の運びを判断するまでに時間がかかった、判断したが身体が思ったより動かなかった。どこで時間がかかったかは人によって異なります。
加齢で変わるのは筋力だけではない
年齢とともに変化する機能には、大きく2つの側面があります。
| 側面 | 変化の例 | 従来の把握方法 |
|---|---|---|
| 身体機能 | 筋力、バランス、柔軟性、視力 | 体力測定、健康診断 |
| 認知運動機能 | 視覚情報の処理速度、注意の切り替え、判断の速さと正確さ、それらを動作につなげる速さ | 把握する手段が少ない |
後者は「気づいてから動くまで」の速さそのものであり、加齢とともに緩やかに時間がかかる傾向があります。しかし体力測定にも健康診断にも表れないため、本人も周囲も気づきにくい領域です。
REAXIONはこの領域を認知運動(Cognitive Motor)と呼び、光る機器への反応という短時間の課題で測定します。
「年齢で一律に制限する」を避けるために
高年齢労働者への配慮を「年齢で一律に危険作業から外す」形で進めると、本人の意欲や現場の戦力を損ないます。実際には、60代でも反応が速く正確な方は多く、逆に40代でも疲労や睡眠不足で反応が落ちる日があります。
年齢ではなく一人ひとりの状態で見ることが、エイジフレンドリーな職場づくりの前提です。そのためには、同じ課題を同じ手順で繰り返し測れる仕組みが必要になります。
反応測定を職場に組み込む3つの方法
1. 健康診断・安全大会に合わせた年1回の全員測定
全従業員を同じ課題で測定し、年代別・部署別の分布として把握します。個人にはSafeScore個人レポートで強み・重点改善能力と安全行動のアドバイスを返し、管理者には部署別スコアとフォロー優先者のリストが届きます。年齢ではなく数値で会話できるようになります。
2. 配置転換・作業変更時の測定
高所作業やフォークリフト運転など、反応が求められる作業への配置時に測定を行い、本人の状態を把握したうえで作業設計や教育内容を決めます。数値は「適性判定」ではなく、どのような補助や手順が必要かを考える材料として使います。
3. 継続測定でトレーニング効果を確認
認知運動機能は、トレーニングによって変化が期待できる領域でもあります。高齢者を対象とした研究では、認知課題と身体運動を組み合わせたトレーニングで処理速度や実行機能の改善が報告されており(詳しくはエビデンスページ)、職場でも短時間の課題を継続することで「前回より速くなった」という変化が本人の動機づけになります。
導入時に決めておきたいこと
- 目的の明文化:人事評価や処遇判断には使わず、安全教育・作業設計・健康経営の参考情報として扱うことを、従業員に事前に説明する
- 結果の返し方:本人へのフィードバックを必ず行い、「測られっぱなし」にしない
- 医療との線引き:測定は診断ではないため、体調や機能に不安がある場合は産業医・医療機関につなぐ運用にする
- 実施の負担:1人あたり数分で終わる課題を選び、点呼や朝礼など既存の流れに組み込む
高年齢労働者の転倒対策のよくある質問
Q. 2026年4月の改正で、何が義務になったのですか?
高年齢者の労働災害防止のための措置を講じることが、事業者の努力義務として労働安全衛生法に定められました(2026年4月1日施行)。具体的に何に取り組むかは「高年齢者の労働災害防止のための指針」に示されているため、指針の5つの柱に沿って自社の取組を点検するのが進めやすい方法です。最新の情報は厚生労働省のページでご確認ください。
Q. 何歳から配慮の対象にすればよいですか?
年齢で一律に線を引くより、同じ課題で測った一人ひとりの状態で考えるのが実際的です。年代別の分布もあわせて見ると、「年齢の影響」と「その日の体調の影響」を分けて考えやすくなります。
Q. 転倒対策は設備の改善だけでは足りませんか?
段差の解消や整理整頓は対策の基本ですが、現場のすべての危険をなくすことはできません。残った危険に「気づいて動けるか」を本人が知ることで、設備面の対策を補うことができます。
Q. 安全教育にどう組み込めばよいですか?
既存のKYTの前後に反応測定を加える進め方が取り入れやすい構成です。具体的な流れは体験型KYTの進め方、安全大会で多人数を測る手順は安全大会・健康経営で「反応測定」を実施する手順で紹介しています。
まとめ
高年齢労働者の労災対策は、筋力や体力の把握だけでは片手落ちです。「気づいてから動くまで」の認知運動機能を、年齢ではなく一人ひとりの数値で把握し、教育と作業設計に活かすことが、エイジフレンドリーな職場づくりの実質的な一歩になります。2026年4月から適用されている指針の「体力の状況の把握」と「安全衛生教育」を具体化する方法としても活用できます。
関連記事:反応時間はなぜ労災予防の指標になるのか/ヒヤリハットが起きる本当の理由。企業向けの導入方法はREAXION SAFETY、実機での測定は体験デモからご確認いただけます。
※ REAXIONは医学的な診断・治療を目的とした製品ではありません。測定結果は事故の発生を予測・保証するものではなく、人事評価や処遇判断を目的とするものでもありません。安全教育・作業設計・健康経営施策の参考情報としてご利用ください。
